こんな高校生活があるだろうか・・・。閉ざされた山の中の学校は、暴力に次ぐ暴力、脱走に次ぐ脱走というこの世の物とは思えない生活があった。
ダウンタウン浜田雅功が「地獄」と表現した日生学園第二高校を卒業した年に私は入学した。見聞きはしていたものの、待っていたのは想像をはるかに超える、旧式軍隊さながらの生活。「懲役3年」と言われながらも、なんとか生き抜いた日生学園の3年間を振り返る。
食べ物の恨みは恐ろしい
日生学園は全寮制なので、もちろん食事はついている。「お代わり」だって出来るから好きなだけ食べられる。しかし、ここは日生学園だ。そんな簡単に、「好きなだけ食べられる」訳がない。
朝食はご飯、生卵、みそ汁、漬物。昼と夜は、ご飯におかずが2~3品。フライであっても炒め物であっても冷めているのは当たり前。あと飲み放題の色のついた、味のしないお茶が全食につく。お代わりはご飯のみで、おかずのお代わりはほぼ無い。カレーライスの時はさすがにあるが・・・。
ラーメンとかパスタとかピザとか・・・日生学園では聞いた事がない。それほどローテーションされまくりなのだ。
確かに1000人を軽く超す生徒がいるのに、熱々の食べ物は到底無理だし、バリエーションを持たそうなんて、夢のまた夢だ。暑かろうが寒かろうが、好きだろうが嫌いだろうが、それしか出てこない。
ご飯、ご飯と書いてはいるが、白米ではない。7:3の麦飯だ。今は玄米とか胚芽米とかいろいろあるが、あの当時はあれほど茶色いご飯を見た事がなかった。匂いも相まって慣れるまで時間がかかった。あと、原因はわからないが、よく「小石」が混ざっていた。小石と言ってもお米の3分の1ぐらいの小さいものだが、運悪く当たると「ジャリ」という音がする。どうやって、何をすれば小石が入るのかわからないが、「日生学園あるある」だった。
食堂では座る席は決まっていて、寮単位で区分けされている。1つのテーブルに8人座り、それが縦方向に長くつながっている。つまり、寮の部屋と同じ座り方をするから、先輩達と一緒のテーブルになる。
あらかじめ、保温が出来ないジャーにご飯と、朝ならみそ汁が入っていて、それをプラスチック製の器によそって待つ。食堂員の「食前の合唱」、「いただきます」の号令で食べ始めるが、直後に100合ぐらい炊けそうな釜が、食堂内の数か所に配置されて、それがお代わり場所になる。このお代わりは炊き立てで、熱いご飯が食べられるが、食堂員の「お代わりと取りに来るように」という、意味不明な命令口調の号令で、お代わりに行くために席を立つ事が出来る。
気難しく我儘な先輩は、最初から冷めたご飯なんて食べない。ご飯を器によそうのは下級生だが、初めから拒否し、その分みんなに「熱くないご飯」を分け与え、食堂員の号令と同時に、1年生にお代わりを取に行かせる。同じ事をする3年生が多く、お代わりはすぐに行列になってしまうので、如何に早く行くかが「奴隷の腕の見せ所」になる。
8人座るテーブルがつながっている「列」が何本もあるので、真ん中あたりの人は不利になってしまう。カレーライスの日になると、下手をすれば列に並ぶのが遅くなり、途中でなくなってしまう時もあった。そうなると別の場所へ行って再度並ぶ・・・という致命的なミスになる。
何が致命的か?そう、これは「先輩のご飯」だからだ。もちろん、そうやって動いている間、自分は何も食べられない。だが、それよりも先輩のご飯が大事で、一歩間違えれば寮に帰って体罰が待っている。
また、「箸立て」も怒りを買う理由の1つだ。横4人が向き合って座るテーブルは長いので、中心あたりに箸立てが置いてある。食べる前はそこから箸を取って並べるだけだが、食べた後は再度、その箸立てに箸を入れて、食後に1年生が洗いに行く事になっている。1年生は上級生が箸立てに箸を入れやすいように、箸立てを傾けて差し出さないといけない。食べている間も常に目で先輩の動向を追い、食べ終わったら間髪入れずに箸立てを向ける。これが「奴隷のしきたり」で、遅れたり、気づかなかったりすれば、地獄に片足突っ込んだ事になる。
実はこういった食堂に関する「難癖」は先輩達にとって都合のいい口実になる。先輩を敬う文化が「ずば抜けて」進んでいる日生学園では、「躾」と称すれば大概な事は許されてしまう。「躾という体罰」を受けるかどうかの瀬戸際に、自分のご飯は頭にない。しかし、「食べ物の恨みは恐ろしい」と言われるように、仕返しこそ出来ないが、ずっと忘れられない思い出であるのは間違いない。
少々話は変わるが、すぐ飽きてしまう日生学園の食事なので、工夫を凝らしていたというか、独特な食べ方をしていた物もある。1テーブルに醤油とソースが入った容器があるのだが、どこから持ってきたのか、ニンニクを刻んで醤油に漬け込んでいるテーブルがあった。朝ごはんが必然的に「卵かけご飯」になるので、それに使うとおいしくなる。醤油は基本的に少なくなれば継ぎ足すのだが、それは食堂員の仕事で、各部屋から1人出す決まりになっている食堂員を押さえておけば事足りてしまう。
食事にはたまに汁物が出る事があり、シチューであったり、なんだかわからない、鶏肉か何かの出汁が効いたスープであったり・・・そういった汁物は大体ご飯にかけて食べる。単体でも食べれるが、何故かご飯にかけてしまった方がおいしく感じた。
あと、変わった物ではプリン。日曜日は食堂が休みなのでパンが配られる。基本的にはコッペパンとジャム的な物などだが、たまにプリンが出る時がある。普通のスーパーにでも売っているプリンだが、そのまま食べる事はせず、かき混ぜて、崩したプリンをコッペパンに挟んで食べるとやたらとおいしい。
他にもいろんな事をしていたと思うが、おいしくないけど、何かと変化をつけて食べていた。厳しい生活の中で、食べる事さえ、神経をピリピリさせざるを得ない状況だった。
ちなみに、「ニンニク」は違反物です。
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